「才能がないから」「骨格が違うから」。
そう言って、諦めた瞬間はありませんか。
正直に言います。骨格も、身長も、生まれ持った才能も、努力ではどうにもなりません。相手選手のポテンシャルも、審判の判定も、自分の力の及ばないところにあります。
でも、ひとつだけ。100%、自分の意志と科学だけでコントロールできるものがあります。
体組成です。
筋肉と、脂肪のバランス。ただこれだけの話です。
でも、この「ただこれだけ」が、想像以上にあなたの身体を変えます。今日は、その仕組みを、なるべく面白く、なるべく本気で、お話ししようと思います。
エピクテトスが教えてくれた、たったひとつの真実
古代ギリシャに、エピクテトスという哲学者がいました。
彼はこう言っています。人間には「コントロールできること」と「コントロールできないこと」がある。そして、苦しみの多くは、コントロールできないものに執着することから生まれる、と。
これ、スポーツの世界そのものだと思いませんか。
骨格の差を嘆いても、身長は伸びません。相手の才能を羨んでも、自分の脚は速くなりません。審判にクレームをつけても、判定は覆りません。
でも、体組成だけは違います。今日から、自分の手で、確実に変えられます。
だからこそ、私はここに賭けろと言いたいのです。
体重は同じでも、中身はまったくの別人になる
ここから先は、事実の話です。
なお、このパートは私自身の現場での観察と考察を多く含みます。その点はご了承ください。
まず、バレーボールやバスケットボール、陸上競技など、ジャンプを伴うスポーツ全般に共通する、シンプルな物理の話から始めましょう。これは特定の誰かの話ではなく、ジャンプする選手全員に当てはまる一般論です。
跳んだ選手が着地する瞬間、膝にかかる負荷は、着地の仕方や動作によって差はありますが、自重の3〜6倍程度になると言われています。ということは、身体についた不要な脂肪1kgは、着地のたびに膝へ3〜6kgもの余計な衝撃を送り続けているということです。
そして、忘れてはいけないのがニュートンの運動方程式、。少し数式アレルギーのある方もご安心ください、丁寧に噛み砕きます。

- F(力)= 筋力。 あなたが地面を蹴る、その瞬間に発揮する力です。
- m(質量)= 体重。 重ければ重いほど、動かすのに大きな力が要ります。
- a(加速度)= 反応速度や瞬発力。 一歩目の出だしの速さ、跳ぶときの伸び、です。
ここで、筋力(F)が同じだと仮定してみましょう。その場合、体重(質量m)が軽くなれば、加速度(a)、つまり反応速度や瞬発力は自然と上がります。精神論ではなく、これは物理法則が教えてくれる事実です。もちろん実際の動きには、技術やタイミングなど他の要素も関わってきますが、「軽くなれば、同じ力でも速く動ける」という原理そのものは揺らぎません。
面白いのは、ここからです。
神奈川大学の女子バレー部にいた選手の、実際の話をしましょう。
先ほどの物理の話は一般論でしたが、ここからは、その一般論が実際に選手の身体でどう起きたのか、という具体的な事例です。
体重60kg、体脂肪率20%。体脂肪量にすると12kg。脂肪以外の中身(除脂肪体重)は48kgでした。
2週間後、何が起きたか。
体重は、60kgのまま。1gも変わっていません。
でも、体脂肪率は19%に落ちていました。
計算すると、こうなります。脂肪が1kg減り、筋肉が1kg増えた。
体重という「表の数字」はぴくりとも動いていないのに、身体の中身は、静かに、そして確実に入れ替わっていたのです。ただの重りだった脂肪が消え、出力を生み出す筋肉が増える。まるで、車体はそのままに、エンジンだけを載せ替えたようなものです。
本人は、こう話していました。
「いつもよりすごく体が軽いんです」
「ジャンプ力が上がって、調子がいいです」
たった2週間。激しい追い込みも、何年もの下積みも必要ありませんでした。
なぜ、2週間で「筋肉が増えた」のか。正直に種明かしします。
ここで、フェアに種明かしをしておきたいと思います。
「2週間で筋肉が1kg増えるなんて、そんなことある?」
そう思った方、鋭いです。その疑問は正しい。
厳密な生理学的にいえば、2週間で純粋な筋タンパク質(筋繊維そのもの)が1kg増えることはありません。筋肉を本当に「作る」には、もっと長い月日が必要です。
では、あの数字は一体なんだったのか。
正体は、筋細胞の中に保持された、水分とグリコーゲン(エネルギー源)です。
イメージしやすい例え話をしましょう。から揚げを作るとき、鶏肉を醤油やお酒、みりんに漬け込みますよね。しばらく漬け込んでおくと、調味料が肉の内部にじんわりと染み込んで、心なしか厚みが増し、ふっくらとしてくる。あれと似たことが、筋肉の中でも起きている、とイメージするとわかりやすいかもしれません。
実際、グリコーゲンは水と結びつきやすい性質を持っていて、グリコーゲン1gに対しておよそ3gの水分が一緒に取り込まれると言われています。食事とトレーニングを最適化すると、筋細胞が水分とグリコーゲンをぐいぐい吸い込んで、心なしかふっくらと膨らみます。体組成計は、この「水分とエネルギーで満たされた、ふっくらした状態」を「筋肉量の増加」として計測しているのです。
つまり、肉体そのものが急激に大きくなったわけではありません。
乾燥して縮こまっていた筋肉に、水分とエネルギーがじんわりと染み込んで、本来のハリを取り戻した。
そして同時に、無駄な重りだった脂肪が、静かに削ぎ落とされた。
このふたつが、同時に起きていたということです。
体重という表の数字は同じ60kgのまま。それでも、細胞レベルではたしかに「質」が入れ替わっている。だからこそ、あれほどのパフォーマンスの変化が、たった2週間で起きたのです。
種を明かしても、この事実の凄みは、まったく色あせないと思います。
なぜ、多くの人がここでつまずくのか
これほどシンプルな話が、なぜ実践されないのでしょうか。
私の見立てでは、原因はひとつです。
「体重」という、ざっくりとした指標に振り回されているから。
「体重が減った」「増えた」。数字が動くたびに一喜一憂する選手を、これまでたくさん見てきました。でも、先ほどのバレー部の例を思い出してください。体重は、まったく動いていません。動いていたのは、中身だけです。
もうひとつ、根深い誤解があります。
筋肉と脂肪を、同列に扱ってしまうことです。
安易な体重制限で、脂肪と一緒に筋肉まで落としてしまえば、それはエンジンそのものを削っているのと同じこと。パフォーマンスは、上がるどころか、確実に落ちます。
そして、指導者としてもうひとつ、大切にしている考え方があります。
「戦略」という言葉は、もともと「戦いを略すこと」だと私は捉えています。
大きな結果を求めるあまり、私たちはつい、派手な新スキルや高負荷なトレーニングに飛びつきたくなります。でも、たとえばバレーボールで「ジャンプ力を3cm上げる」ための専門トレーニングに何ヶ月も汗を流すより、規則正しい生活を心がけて、脂肪がつきにくい生活習慣に整え、脂肪を1kg落とすほうが、結果的に高く跳べてしまう。そういうことが、現実には普通に起こります。
遠回りの努力より、構造そのものを変える一手。そのクリティカルな思考を、私は指導のなかでいつも大切にしています。
体組成をデザインする、3つのステップ
では、具体的に何から始めればいいのでしょうか。
ここからは、生化学・解剖学の知見をふまえた、実践の話をしましょう。
まず、知っておいてほしい事実がひとつあります。
筋肉を1kg増やすのは、難しい。
脂肪を1kg落とすのは、簡単です。
純粋な筋肉量を1kg増やすには、過酷なトレーニングと、長い月日が必要になります。一方、体脂肪1kg(およそ7,200kcal)は、食事のPFCバランスとエネルギー収支さえ管理すれば、1〜2週間で確実に落とせます。
だからこそ、パワー重量比を上げる一番の近道は、いつだって同じです。
まず、不要な脂肪をシェイプすること。
そのための、3つのステップを紹介します。
Step 1|測定する 感覚や体重計ではなく、体組成計で「中身の数値」を可視化しましょう。ここが、すべての出発点です。
Step 2|脂肪をシェイプする 筋肉量は維持したまま、エネルギー管理で不要な脂肪だけを落とします。
Step 3|部位別に補強する 競技に必要な部位の出力を、狙って高めていきましょう。
シンプルですが、これがすべてです。
Step 2を、どう実践するか
「脂肪をシェイプする」と言っても、やり方は無数にあります。
ここでは、その中から私が厳選したものだけをご紹介します。全部をやる必要はありません。ひとつでいい。できるものから、気軽に試してみてください。
まず知っておきたい、「運動だけ」の限界
「よし、脂肪を落とすなら運動だ」と、練習量を増やそうとする方は多いと思います。気持ちはよくわかります。でも、ここでいったん、冷静に数字で見てみましょう。
体重60kgの人が1時間運動した場合の消費カロリーは、METs(運動強度の指標)をもとにすると、おおよそ次のとおりです。
- ランニング(時速8kmほど):約500kcal
- ジョギング(ゆっくり):約380kcal
- バレーボールの練習(中強度):約300kcal
脂肪1kgを落とすのに必要なカロリーは、約7,200kcal。
仮に、バレーボールの練習を毎日1時間、30日間続けたとします。300kcal × 30日 = 9,000kcal。単純計算では、脂肪1.25kg分に相当します。
数字だけ見ると、悪くなさそうに思えます。でも、ここには大きな落とし穴があります。運動をすると、当然お腹が空きます。そして、多くの人は無意識のうちに、運動で消費した分の一部、あるいはそれ以上を、食事で補ってしまうのです。これは「代償摂取」と呼ばれる、よく知られた現象です。結果として、理論上の消費カロリーは、実際の体重・体脂肪の変化にはほとんど反映されない、ということが現場では頻繁に起こります。
つまり、食生活を変えないまま運動だけに頼るのは、遠回りなうえに、成果が出にくい戦略だということです。
だからこそ、賢いのは「運動」と「食習慣・生活習慣」を、かけ合わせることです。片方だけに全力を注ぐより、両方に少しずつ手を入れるほうが、結果的に近道になります。
血糖値を支配して、「食べて燃やす」
「痩せる=食べない」は、アスリートにとって最悪の選択です。
糖質を完全に抜くと、筋肉まで分解されてしまいます。そのうえ、脂肪をため込みやすいリバウンド体質になってしまう。大切なのは、我慢や根性ではありません。血糖値と、インスリン(脂肪を蓄えるホルモン)を、賢くコントロールすることです。
- 単品で食べない。 白米だけでなく、卵や納豆を必ず組み合わせましょう。
- 食べる順番を守る。 ①食事30分前に水を飲む → ②野菜・海藻(食物繊維)から食べる → ③タンパク質&炭水化物。
- 練習が多い日は、食事を分割する。 例えば17:30〜22:00に練習があるなら、練習前は「炭水化物70:おかず30」、練習後は「炭水化物30:おかず70」。遅い時間のドカ食いこそ、太る最大の原因です。
挫折をゼロにする、行動のデザイン
根性で続ける必要はありません。心理学と認知科学の仕組みを使えば、習慣は自動的にまわり出します。
- 行動モメンタム技法。 大きすぎる目標は、脳が拒絶します。「寝る前にジムバッグの準備をするだけ」くらい、バカバカしいほど小さく分解しましょう。
- 状況的触発刺激。 冷蔵庫に「また、食べるの?」と貼る。スマホの壁紙を、目標を書いたものに変える。
- 鏡の効果。 食事をする場所に、鏡を置いてみてください。自分の姿が見えるだけで、悪い食べ物を選ぶ量は32%減るというデータがあります。
- 自己観察技法。 体重や食事を記録する人は、しない人に比べて成功率が約2倍になると言われています。
- 援助要請。 ひとりで抱え込むより、周囲に協力を求める人のほうが、成功率は3倍になります。
派手さは、いりません。地味な仕組みを、淡々と積み重ねるだけでいいのです。
行き詰まっているなら、まず体組成を変えてみてください
プレーの技術や、作戦に迷っているなら。
あれこれ悩む前に、まず体組成を変えてみてください。
膝の負担が減る。ジャンプが上がる。身体が軽くなる。普通に考えて、マイナスに働く要素はひとつもありません。
そして、これはスポーツだけの話ではないのです。
自分の身体を、自分の意図した通りにデザインできた経験。科学的に、自分自身をマネジメントしたというプロセス。
それは、脳に「圧倒的な自己管理能力」として刻まれます。競技を引退したあとも、ビジネスでも、人生のどんな局面でも。
しかも、その効果は身体だけにとどまりません。
「今日はジュースを飲まないと決めて、実際に飲まなかった」
たったこれだけのことでいいのです。自分で決めたことを、自分でやり遂げた。この小さな成功体験を、心理学では「マスタリー体験」と呼びます。
こうした小さな成功を積み重ねることで育まれるのが、「自己効力感」です。自己効力感とは、特定の課題や状況において「自分はうまくできる」と思える感覚のこと。
体組成という、目に見えて結果が出る領域で、この感覚を積み重ねておくことには意味があります。ここぞという場面で発揮される自信は、こうした地味な積み重ねの上にしか育たないと、私は思っています。
それは、あなたを一生支え続ける、最強の武器になるはずです。
体重計の数字に、もう振り回される必要はありません。見るべきは、いつだって「中身」です。